作品の説明1980年代後半からウガンダ北部では反政府ゲリラLRA(神の抵抗軍)がウガンダ政府に対してゲリラ活動を展開していた。彼らの戦術は家を焼き、村人を追い、さらに子供たちを誘拐し奴隷として働かせ、女子に対しては兵士の妻にしたり性的暴力を加えたりした。 村や被災民キャンプ村に暮らす子供たちはLRAの攻撃、誘拐から逃れるために、毎日、夕方になると家からグルの町にあるキャンプ(宿泊施設)に数時間かけて徒歩でやってくる(彼らのことをナイト・コミューターNight-Commuterという)。 施設には給食設備はなくただ寝るだけだ。ゲリラたちの恐怖から逃れてきたとはいえそれでも、同じくらいの歳(7,8才~15,6才)の友達と逢えるのうれしいらしく、子どもたちの顔には笑顔もあった。 最大時、グルの町には6000人を超す子供たちが毎夜泊まりに来ていたという。わたしはその中の一人、パトリック少年に密着し、朝6時過ぎキャンプ村に帰ってゆくパトリック少年の後を追った。 被災民キャンプの家について見ると、父親が一人家の土壁にもたれていた。息子(パトリック)と二言、三言言葉を交わしたが、父の目に力はなく、生気が感じられなかった。戦争で妻も娘も奪われた。キャンプ暮らしの一人の男にどれほどの未来があったのか・・・。世界からの注目も少なく、ウガンダ政府の支援も十分とはいえなかった。 わたしは静かにシャッターを押させてもらった。何もない家の中に入ったパトリックは冷たくなった昨夜の残り物を食べ終わるや、教科書の入った小さなカバンを背負い、学校に向かった。わずかにその後ろ姿だけに希望を見た、というのは言い過ぎだろうか。
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