作品の説明1994年8月、わたしはルワンダ虐殺、内戦から逃れて隣のザイール(現コンゴ)に逃げ込んだフツ族難民たちが暮らすキャンプの一つ、キブンバ難民キャンプを歩いた。キブンバはキブ州の州都ゴマの北30キロにある30万人以上が暮らす難民キャンプだ。ルワンダ国内で100万人近いツチ族を殺したフツ族(とくにフツ族過激派が中心的役割)は、ツチ族主体で隣のウガンダから攻め込んだRPF(ルワンダ愛国戦線)が勝利するや、報復を恐れて雪崩を打ってザイールに逃げ込みいくつもの巨大な難民キャンプを作った。キブンバはその中の一つである。 カメラを持ちキャンプをさ迷い歩くわたしの目の前には想像を超えた人間たち、逃げ延びたアフリカ難民たちの作る世界が広がっていた。乱立する藁やビニールシートでできた粗末な小屋、小屋、そしてまた小屋のうねり・・・・。キャンプ内に張り巡らされた無数の小道が迷路となってどこかに消えている。キャンプは不毛な火山岩大地の上にできていた。水がないため衛生状態も極めて悪く、コレラの発生で5万人が死んだ。キャンプの左手には3000mをゆうに超す巨大な活火山ニイラゴンゴが、さらに反対側には4000mを超すビルンガ火山群の山々が聳えている。もっとも強く私を刺激したのは匂いだ。30万人の難民たちが作り出す匂い。だが衛生状態も悪いにもかかわらず何故か臭くておかしな匂いではなかった。あえて言えば煙と体臭が作り出す人間の匂いだった。それが風に乗って時折わたしの鼻をくすぐった。 キャンプは山々のすそ野にまで広がっている。わたしは小さな小高い丘に登った。眼下には30万人以上の難民がが密集して暮らすキャンプが広がっていた。それはあの古代都市、栄華を誇りながら一瞬にして消え去った〝バビロン〟を思い起こさせた--「アフリカン・バビロン」。それ以外の言葉は見つからなかった・・・。事実、それから2年3か月後の1996年11月、RPF(ルワンダ愛国戦線)他の攻撃によってキャンプは一瞬にして壊滅、地上から姿を消した。
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